神戸市内には、古くから地元住民に親しまれてきた数多くの「商店街」があります。
神戸市も重点施策のひとつとして「商店街・小売市場の活性化」に取り組んでいますが、後継者不足や建物の老朽化のほか、通販やマーケットプレイス、デリバリーサービスなどが急速に拡大していることなどから、にぎわいが減りつつある商店街も少なくありません。
そんなまちの課題を解決するべく、川崎重工業株式会社が取り組んでいるのが、独自のデジタル技術を活用したイベントを実施し、訪れる人を増やして地域の経済活性化につなげる「リアルとデジタルの連携技術で神戸三宮の持続可能なまちづくり」事業です。
鉄道車両・造船だけじゃない”川重“の多彩な事業、独自の位置情報技術を活用した「リアデュー」
川崎重工業といえば「鉄道車両」や「造船」のイメージが強い神戸を代表する企業の一つですが、実はそれだけではなく、モーターサイクル・ロボット・産業プラントなど多彩な事業を展開し、デジタル技術の開発にも取り組んでいます。
なかでも、電波が届きにくい屋内でも位置情報を取得できる独自技術「iPNT-K(アイピントケイ)」は、初期設備投資がほとんど必要なくスタートできると大手企業が続々導入。この技術を活用したのが、リアルとデジタル技術の連携によるサステナブルなアプリケーション「Real D You(リアデュー)」です。
このアプリでは、まちの情報をマップ上でタイムリーに知ることができるほか、お店を巡ってビンゴを埋めたり、さまざまな行動でマイレージを貯めたりといったアプリ内機能を通じて、ゲーム感覚で楽しみながら、まちに親しみが持てるような仕組みになっています。
川崎重工業は2022年6月、三宮本通商店街振興組合、三宮センターサウスまちおこし会、神戸市、地元大学などとともに、リアデューを活用して取り組む「神戸三宮(神戸市中央区三宮町二丁目周辺地域)の地域活性化実証事業」をスタートしました。
この事業では、三宮一番の繁華街・神戸三宮センター街の1本南側の通りに位置する「三宮本通商店街」と「センターサウス通り」一帯を舞台に、アプリを通じて来街者の行動を分析。顧客ニーズを探り、まちを訪れたくなるようなアプリの開発に取り組んでいます。
2023年3月に、この一帯を「ミチニワ」エリアとして、まちびらきすることに合わせて、リアデューを取り入れたアプリ「ミチニワ powered by Real D You」をリリース。獲得マイレージで競うイベントなどを実施したところ大きな関心を集め、来街者数の増加に貢献することが実証されました。
地元大学の学生によるアイデアを取り入れたイベントを6月、8月に実施し、2023年度の「CO+CREATION KOBE Project」事業として採択後の12月には、アプリを活用したまちあるきイベント「まちかず」を開催しました。今回は「まちかず」の様子を取材し、アプリの考案者である川崎重工業株式会社・永原斉さんと、三宮本通商店街振興組合 代表理事・髙井学さんのインタビューを交えてお伝えします。
イベントには子ども連れファミリーなどが参加、アプリ片手に楽しくまち歩き
このイベントは、「ミチニワ」アプリを活用して、三宮本通商店街とセンターサウス通りの各所にある「数字」を探索しながら、まち歩きが楽しめるというもの。参加者にはヒントが書かれた紙が配布され、実際にまちを歩いて、お題に沿って数えて導き出した数字を解答してゴールする、という仕組みです。
イベントは12時ごろから参加受付を開始し、イベントは13時ごろに一斉スタート。参加者はヒントを見て、どういう順番でお店などを回るかなどを相談しながら、まち歩きを楽しみました。制限時間は1時間でしたが、開始15分ほどで数組がゴール。多くの参加者が制限時間内に正解にたどり着いていたようです。
大阪から単身で参加したという男性は、友人からイベント情報について聞き、なんとなく興味を持って参加したといいます。神戸はほとんど訪れず、このエリアにも初めて来たそうですが、「知らない土地だけど楽しめた。ただ謎解きでは商店街の“理事長”がどの人か分からず、探すのが大変だった」と笑顔で振り返りました。
子どもと一緒に参加した夫婦は「謎解きは意外と難しかった。商店街の柱の数などは実際に歩いてみないとわからないので、子どもと一緒に数えながら楽しめた」と、おでかけの良い思い出になったそうです。
「電車内の空間価値を上げたい」から着想、アプリ通じて「まち」のにぎわい創出へ
鉄道車両・造船などのイメージが強い川崎重工業が、なぜデジタル技術を活用して地域活性化に取り組むのか。「リアデュー」アプリの考案者で、同社技術開発本部 基幹職の永原斉さんと、三宮本通商店街振興組合 代表理事の髙井学さんにお話をお伺いしました。
電車の中で、スマホの画面をずっと見ている人も多いと思いますが、もし、たまたま同じ空間に居合わせた人がコミュニケーションを取れたら、電車内という空間の価値が上がるんじゃないかと考えたのがアプリを考案したきっかけでした。
神戸市でにぎわいが減りつつある商店街がある、という話も聞いていて、商店街は人が集まる公共エリアなので、私としてもそこで何か新しいことがしたいと思いました。そんなときに、神戸市のイノベーション専門官から三宮本通商店街・センターサウス通り一帯で先進的な取り組みをされていると聞き、同商店街振興組合の代表理事・髙井さんとお話させていただいて、まちのにぎわいを創出するために一緒に取り組んでみましょう、となりました。
CO+CREATION KOBE Projectに採択された後は、神戸市さんに広報活動などさまざまな面で支援いただきました。神戸市さんとのプロジェクトですよ、と言うと皆さん安心して話を聞いてくださったり、興味を持ってくださったりして、そこはすごく大きかったなと感じています。
お店を巡ってビンゴを埋めたり、まちを歩くなどの行動でマイレージが貯まったりと、ゲーム感覚で楽しめるのもこのアプリの特徴です。このまちを通りがかるけれども、お店には立ち寄らない人をターゲットにしていて、ちょっと足を止めてみたり、アプリを使って少しまちで遊んでみようと思っていただけるようなアプリにしていきたいです。
2024年3月の「まちびらき1周年」に向けて、アプリのさらなる改善・拡充などを進めていきます。今後も地域社会のみなさんと対話しながら、大学や関係団体とも連携を深めて、日頃お世話になっている地域社会の活性化に貢献していきたいです。
商店街の仕組みをアップデートして「愛されるまちに」 商店街代表・髙井さんの思い
まちに人を呼び込むには、まずは認知されて愛されるまちにしないと、と思っています。
昔は商店街のお店の上の階に人が住んでいましたが、今はテナントやチェーン店も増えて、なかなか昔のようなコミュニティーを維持するのは難しいです。長年培ってきた地域のコミュニティーを活かしつつ、今までの仕組みをどこかでアップデートしないといけないとも思います。
情報発信方法も、昔はチラシや広告を打っていたのが、今はお店自身がSNSなどで発信できるようになって、お店もそういう意味でデジタル化しているんですよね。商店街もそれに合わせて、取り組みをデジタル化していく必要性を感じています。
まち全体が盛り上がっているのが伝われば人が集まってくるのではないかと考え、「ミチニワ」というエリアとして取り組んでいます。“○○通り”だけではただ通るだけになってしまう。でも、路地や周辺施設も含めてエリアとして定義すると、“あのへん行くとなんか楽しいよね”と認知してもらえるのではないかと思います。
取材・文/森本亜沙美
写真/奥大輔