2023年度「CO+CREATION KOBE Project」に採択された14事業の中で、唯一の学生チームによる提案が、神戸電子専門学校の6名の学生による、路上ライブを開催したい人(アーティスト)と、路上ライブに行きたい人(観客)をマッチングする「Street(ストリート)」というアプリです。
彼らが学ぶ神戸電子専門学校は、神戸市中央区にあり、1958年に開校した日本で最も歴史あるIT系専門学校です。情報処理、ロボット、ゲーム、映像、アニメーション、サウンド、デザインなど、20学科を擁し、学生の実践力を磨いています。クリエイティブな業界からの信頼もあつく、卒業生たちは、大手企業・先端企業で活躍しています。
「Street」はマップ機能が一番の特徴で、自分がいる現在地付近の地図に、開催中の路上ライブの情報が表示され、「ヒマだなぁ」と思ったら、すぐに見に行けるような直感的な操作が可能です。また、アーティストへ報酬を送る「投げ銭」機能もあり、大勢の観客が見ている前だと、なかなか勇気がなくて投げ銭しづらいという人に便利なだけでなく、アーティストのモチベーションUPにもつながる仕組みとなっています。
開発のリーダーである長澤伸一郎さんと、開発担当の桑原秀太さんに、開発の背景や工夫した点、10月に行われた実証実験の様子などをインタビューしました。
学生だからこそできた、企業が拾わないニッチなニーズを事業化
コンサートやライブイベントは手軽にネットで検索できるのに、路上ライブは偶然まちで出会うか、ファンになってアーティストの情報発信を待つしか、情報の入手手段がありません。多くが個人活動であり、取りまとめる団体やプラットフォームもないため、費用対効果が合わず、企業が事業化しづらい「路上ライブ」というニッチなジャンルに着目した長澤さんに、この「Street」誕生のきっかけをお伺いしました。
「僕は高校生の頃から、簡単なアプリを独学で作っていました。今の時代は、インターネットで必要な知識は学べますし、コロナ禍で自宅にいる時間が長かったことも影響していますね。
昔から路上ライブを好きでよく見ていて、ある日、街中で素敵なアーティストを見かけたのに、その後そのアーティストを探そうとしても見つけることができず、悔しい思いをしたことがあったんです。そのときに、路上ライブを検索できるアプリがあったら便利だなぁと思い、神戸電子専門学校 AIシステム開発学科に入学した1年生のころから、個人開発のカリキュラムの中で、この『Street』を開発してきました。
2年生になり、チーム開発のカリキュラムが始まり、それぞれ得意分野が違うメンバーを加えて、今は6名で役割分担をしながら進めています。先生を通じて、神戸市の文化交流課が路上パフォーマーを登録制にしてまちを盛り上げる『まちなかパフォーマンス制度』を、2024年3月を目指して整備していることを教えてもらい、Streetと連携できる可能性を感じました。その話の中で、『CO+CREATION KOBE Project』に提案してみてはどうかと勧めてもらって、今回の事業提案に至りました」
続いて、主に開発を担当されている、桑原さんに、開発中の様子をお伺いしました。
「初めてのチーム開発だったので、コミュニケーションと進捗管理に苦労しました。スケジュールは、「Notion」を使って管理しています。アプリのデザインも話し合って作っていったのですが、チームメンバーに留学生がいて、その子が得意なので助けられました。バックエンド(管理側)は、「Laravel」というPHPのフレームワーク、フロントエンド(ユーザー側)はWEBが「React」というJavascriptのフレームワーク、モバイルが「Flutter」を使って書いています。それぞれ担当のメンバーがいて、連携しながら開発しています。
開発で特に意識しているのは、ユーザー目線になって、考えることです。実際にユーザーだったら触りやすいか?と想像したり、クラスメイトに試してもらっています。
また、私たちは2024年3月で卒業しますので、コードは誰に引き継いでも分かるように、読みやすくするように考え方が変わりましたね」
続けて、長澤さんは「開発中に大変だったことは、スケジュールが遅れていったり、チームのモチベーションが一時的に下がったりしたことでした。リーダーである僕は、個別に話をしたり、『Street』が描くビジョンを語ることで、みんなで力を合わせて、ここまでプロジェクトを進めることができました」と語ります。
実証実験は手応えアリ。ユーザーの声をすぐに開発へフィードバック
2023年9〜10月に、神戸市文化スポーツ局の協力を得て、「Street」の実証実験を実施。14組のアーティストが実際に三宮近辺でライブを行い、その情報を「Street」で発信しました。観客とアーティスト双方に、アプリの使用を呼びかけ、1日あたりの観客は130〜140人ほど、アーティストは約40人に登録いただきました。スマホからの投げ銭は合計16,015円集まりました。
長澤さんは「こういった実証実験は初めてだったので、ちゃんと使われるか、いろんな意見が出るのではないか?と緊張していました。実際にライブにも足を運んで、アプリを使っている人を見ることができて、とても良い経験になりました。
今は、実証実験でのユーザーの声にこたえる形で、システムやデザインをアップデートしています。例えば、現在はamazonギフトでの投げ銭を実装しているのですが、使いづらいという声もあり、電子マネー等の連携ができないか模索しています。また、親しみやすいデザインとより使いやすいデザインを目指してデザインのアップデートもしています」
現在は、4月に始まる「KOBE まちなかパフォーマンス制度」とリンクする形で、大詰めの開発が進んでいます。オーディションを経た約30人のアーティストが、登録アーティストとして「Street」にライブ情報を登録し、ユーザーは、路上ライブの場所や日時、好きな音楽ジャンルで検索したり、お気に入りのアーティストをフォローしたりできるようになるそうです。
神戸発の「Street」が、日本のストリートカルチャーの楽しみ方を変えるーー。そんな未来も遠くないのかもしれません。
取材・文/松本有希(株式会社神戸デザインセンター)