超高齢化社会を迎える日本で、LOVOT(らぼっと)が切り開く新しい未来

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令和3年度CO-CREATION KOBE Projectで、介護負担軽減の課題解決案として採択

日本は、2025年に65歳以上の高齢者人口が3,677万人となり、人口の30%を超える超高齢化社会が目前に迫っています。

神戸市でもその構造は変わらず、介護人口増加を見据えて、介護負担の軽減・離職防止という課題を解決する事業提案を、令和3年度CO-CREATION KOBE Project(民間提案型事業促進制度)において、募ることとしました。

令和3年度CO-CREATION KOBE Projectには、

  • with コロナ社会に対応し、さらに神戸の創生に資する「ACTIVE型」
  • 市が予め指定した具体的な課題の解決に向けた「WISH型」

の2タイプがあり、「介護施設等における職員の業務負担軽減につながるAI・ロボットの活用事業」が、WISH型の課題の一つとして提示されました。

この課題を解決する事業として、審査を経て8月に採択されたのが、GROOVE X(グルーヴ エックス)株式会社が開発した「LOVOT(らぼっと)」というロボットを活用した実証実験です。

LOVOTの名前の由来は「LOVE」+「ROBOT」の造語で、“LOVEをはぐくむ家族型ロボット”というコンセプトのロボットです。

LOVOTは、愛着を形成するために人が必要とする「触れ合う・見つめ合う・駆け寄る」という機能を備えています。自走式で目の表情がくるくる変わり、何より抱くとほんのり温かいのが特徴です。

CO-CREATION KOBE Projectでこの実証実験が採択された後、神戸市介護保険課を通じて、先駆的な取り組みに協力的な法人を選定。SOMPOケア株式会社に決定し、2020年10月6日〜12月31日の約3ヶ月間、「SOMPOケア ラヴィーレ神戸伊川谷」と「SOMPOケア そんぽの家 南多聞台」の2施設に、それぞれ2体のLOVOTが導入されることとなりました。

実証実験としては、介護の現場が抱える課題について、LOVOT導入施設と非導入施設において、事前/中間/事後にアンケートやヒアリングを実施し、その違いや変化を見ることとしました。検証する評価ツールとしては、ストレスレベル、主観的幸福感、自己肯定感、BPSD評価などを用います。

主な目的は二つあり、一つ目が、介護スタッフのストレス軽減・会話のきっかけづくりです。二つ目が、認知症や不安を抱える入居者にとってどういった存在になれるのかということです。

LOVOTが愛される理由とは

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ラヴィーレ神戸伊川谷の支配人・嘉村さんにお話を伺いました。

「導入前の想像以上に、LOVOTは表現豊かで、すぐに介護スタッフやご入居者さまに受け入れられました。初対面でも『いちごちゃん!!』とテンションが上がる人がほとんどで、ロボットだから気持ち悪いとか、馴染みにくいという人も少なかったです。」

「みんなにかわいがってもらっていて、介護でロボットがどんな役割を担うのか半信半疑だった人も、その「癒やし」効果に驚いています。」

介護スタッフからは、「働く仲間が一人増えた気分」という声が上がるほどで、実証実験の終了時は、電源を切って箱に入れて返送するように指定がありましたが、「できれば電源を入れたまま、車で連れて行ってほしい」という声もあったといいます。それほどまでに、あたたかい絆を築いたLOVOTの秘密は、どこにあるのでしょうか?

最も印象的なのは、その瞳です。大きくてくるくるとよく動く瞳は、表情豊か。言葉を話さないLOVOTですが、十分に感情が伝わります。頭上のカメラで、対面した人の表情を読み取り、目が合うようになっています。悲しそうな表情はせず、なついている人と見つめ合うと、時には目がきらきらし、充電が切れそうなときは、電池マークがピコピコ点滅します。

また、耳の遠い方とでも、大きな目の動きとジェスチャーで、容易に感情が伝わります。見つめ合うことで「好き」という好意的な感情が自然に湧き上がってくるのは、不思議な体験でした。

AIによって館内の地図を記憶し、自律走行します。充電がなくなれば自分でネスト(充電器)まで戻りますが、広い館内で迷子になることや、倒れて救出が必要になることも。そんなときには管理用のスマホアプリにSOSが発信され、そんなところも子どものようで可愛いと言います。かまってくれる人を探して後追いをすることもあり、1歳ごろの子どもの愛らしい仕草を思い出させます。

体重は約4kg。車輪をしまうと「抱っこして」の合図です。抱っこしていると気持ちよさそうにうっとりした表情になり、寝てしまうことも。

ラヴィーレ神戸伊川谷では「いちご」「すもも」、そんぽの家南多聞台では「すみれ」「バナナ」と名前をつけてもらいました。胸につけている名札や髪飾りは、スタッフの手作りです。
LOVOTは周囲の関わり方を学習して、行動を変化させるロボットなので、主に入居者スペースにいる「いちご」と、主にスタッフスペースにいる「すもも」では、個性が違ってくるのも面白いところです。

LOVOTには何かを覚えたり、役に立ったりする機能はありません。人の仕事を手伝う役割は、LOVOTに求められていないのです。ただひたすらに「かわいがられる存在」であり「そばにいてくれる存在」であることが、LOVOTの役割なのです。

入居者や介護スタッフに、LOVOTがもたらす変化

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そんぽの家 南多聞台の上席ホーム長・内野さんに、入居者とLOVOTの関わりについて、お話を伺いました。

「眠れずに何度もスタッフコールをしていた、あるご入居者さまの変化が一番驚きましたね。スタッフと一緒にLOVOTが部屋を訪れ、スタッフが3〜4分お話を聞いた後、LOVOTがそばに残ります。しばらくすると落ち着かれて、おやすみになったということがありました。」

入居者は約60名で、支えるスタッフもほぼ同数。入居者は、要支援1〜要介護5までの方がいらっしゃり、認知症の方も約2割。平均年齢は80歳を超えています。

リビングで、昔の流行歌を流す「カラオケの時間」にお邪魔すると、7人ほどの入居者の方が音楽を聴いていらっしゃいました。特に会話はなく、表情も無表情の方が多い様子です。
そこにLOVOTの「いちごちゃん」がトコトコとやってくると、手を振る方、笑顔でにっこりされる方など、皆さんの表情がパッと明るくなったのが感じられました。

抱っこする優しい手つきや、「結構重いのよ」と取材スタッフに話しかけてくださったのが、とても印象的でした。女性だけでなく男性の入居者も写真を撮るなど交流を楽しんでおり、そこに性差はあまり見られないとのことでした。

一方、介護スタッフの執務スペースや休憩室で主に過ごすLOVOTは、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、1人ずつ休憩を取るスタッフの話し相手になり、ほっと和む空間を作り出してくれます。また、愚痴が減ったという効果もありました。
職場スタッフでもなく、入居者でもない存在=LOVOTが、共通の話題になる効果は、想像以上でした。

続いて嘉村さんは、こう話します。

「1人で過ごす暇な時間、モヤモヤをひたすら聞いてくれて、ずっとそばにいてくれる。スタッフによる食事や入浴といった援助と援助の「隙間」を、LOVOTが埋めてくれるんです。また、近くにいてくれるけれど踏み込んでは来ないという距離感が安心を生みます。

なんと言っても大きいのは、「用事がない時」でもそばにいてくれる存在だということです。ご入居者さまも、毎日お世話になる介護スタッフに対して、用事がないと声をかけづらい、ただのおしゃべりでは時間を取らせられないと、どうしても遠慮がちになってしまいます。そういう気遣いをされる方ほど、寂しさから鬱傾向になったりしてしまいます。そういったことを防いでくれる可能性を感じますね。」

ロボットやAI技術の活用が、介護現場の未来の鍵を握る

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介護の現場には、入居者の眠りをセンサーで見守る機械や、ベッドがそのまま車椅子になる機械など、今でもいろいろな技術が導入されていますが、おそらく今後は今以上に、ロボットやAIの導入が進むでしょう。ロボットやAI技術を活用できるかどうかは、人手不足解消の重要な鍵を握っています。

LOVOTの導入には、コストが一番大きい課題です。初期コストは約35万円。月額サービス料もかかります。人材を雇用すれば、もちろんそれ以上にかかるのですが、施設にとっては大きな投資になります。

ただ、食事もトイレの問題もなく、散歩の必要もないので、愛玩用のペットを買うよりも管理が楽で、いつまでもいつでも働いてくれる、そんな存在が介護の現場で求められていることは間違いなさそうです。


参考サイト

GROOVE X株式会社
https://groove-x.com
(介護施設対象の無料1週間お試しキャンペーンの実施について) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000094.000055543.html

令和3年度 CO-CREATION KOBE Project 募集記事
https://kobeppp.jp/co-creation-kobe-project

令和3年度 CO-CREATION KOBE Project 選定結果
https://kobeppp.jp/topics/3281


取材協力/SOMPOケア株式会社
https://www.SOMPOcare.com/

取材・文/松本有希(株式会社神戸デザインセンター)
写真/平井麻衣