自社のリソースを生かし、こども・若者ケアラーの未来をひらく/株式会社チャーム・ケア・コーポレーション

ヤングケアラーという言葉を、聞いたことがありますか? こども家庭庁によると『本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこども・若者』と定義されています。ヤングケアラーは、その責任や負担の重さにより、学業や友人関係などに影響が出て、こどもらしい生活を送ることができない状況にあります。

今回は、ヤングケアラーをめぐる課題や、全国に先駆けた神戸市の支援、そして神戸市と事業連携協定を締結し、積極的に支援する株式会社チャーム・ケア・コーポレーションの民間企業ならではの取り組みをお届けします。同社が運営する有料老人ホームの一つ「チャームスイート神戸垂水」に、同社業務管理室副室長 河端様、総務室室長代理 永田様、そして神戸市福祉局相談支援課こども・若者ケアラー相談・支援窓口 上田課長と霜川係長にお集まりいただき、お話を伺いました。

左から、株式会社チャーム・ケア・コーポレーション 河端様、永田様、神戸市 上田課長、霜川係長

自分から声を上げづらい、ヤングケアラーたち。支援は始まったばかり

神戸市では、こどもだけでなく20〜30代の若者にもヤングケアラーがいて、支援が必要だという考えから、支援の対象を「こども・若者ケアラー」と設定。神戸市福祉局の推計によると、対象者は約11,000〜17,000人にのぼります。

神戸市福祉局相談支援課 上田課長に、こども・若者ケアラーならではの課題と神戸市の取り組みについてお話しいただきました。

こども家庭庁「ヤングケアラーとは?」より https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/about/

まず、当事者から声が上がりづらい、上げづらいという特徴があります。家の中のことなので、外からは見えませんし、本人たちも小さな頃から家事をしたり、家族の世話をしたりすることが当たり前で、「家族で力を合わせて生活している」という意識です。しかし近年、家のことを優先するあまり、こどもらしく勉強や遊びをする権利が阻害されている状況には支援が必要だ、という認識が生まれ、法律もでき、ようやく少しずつ認知されてきました。

今まで接してきた約200人ほどのこどもたちからは、「家族を手伝うのは普通のこと」「相談して何になるの?」という言葉をよく聞きます。彼らが、自分だけが周りと違う、友人と比べて過度に家のことをやっていると気づくのは、高校生頃になってからです。そして、家のことを外で話さず、自分で抱えてしまいます。なので、こういう状況のこどもたちがいることへの理解を広げると共に、こども・若者ケアラーが「話してもいいんだ」と思える場所や人が必要なのです。

神戸市では2021年6月に、全国で初めてこども・若者ケアラー専門の相談窓口を設置しました。福祉専門職の職員が、当事者や関係者からの相談を受け、教育・福祉などの関係機関と連携しつつ、支援の調整を行っています。また、高校生以上には孤立を防ぐために当事者同士の交流の場「ふぅのひろば」を設け、小中学生にはこどもらしく過ごせる場として学習支援やこども食堂を紹介しています。

→神戸市のこども・若者ケアラー支援について詳しくはこちら

そして、株式会社チャーム・ケア・コーポレーションからお声がけいただき、連携支援が2022年8月からスタートしました。当事者同士の交流の場「ふぅのひろば」へのサポートから始まり、2024年3月にはこども・若者ケアラー支援に関する事業連携協定を締結し、さらに連携を強化しています。

→事業連携協定について詳しくはこちら

初めて企業と連携してみて、行政とはまったく違う発想や考え方に大変刺激を受けています。リスクを回避するのではなく、「どうしたらできるのか?」「できることはないのか?」と、目的達成のために何をクリアにすれば良いのかを考え、臨機応変に動いてくださることに、大変感謝しています。個人情報との兼ね合いもあり、福祉の世界はどうしても閉じた世界になりがちですが、今後はこういった民間企業との連携を積極的に進めていくように変えていきたいと感じています。

“ポイント交換”から始まった社会貢献が育ち、多くのヤングケアラーを笑顔に

株式会社チャーム・ケア・コーポレーションは、近畿圏、首都圏にて有料老人ホームを約100施設運営する企業です。一見すると、ヤングケアラー支援とは結びつかない企業が、なぜ神戸市と連携した支援をスタートし、全国でも画期的な取り組みをするようになったのでしょうか。そして社内にはどんな影響があったのでしょうか。同社業務管理室副室長 河端様と、総務室室長代理 永田様にお話を伺いました。

株式会社チャーム・ケア・コーポレーションの「こども・若者ケアラー支援」の仕組み

そもそものきっかけは、備品などの購入時に付与されるポイントを、何か社会貢献に使えないかな?という考えでした。ポイント寄付という方法もありますが、形に残りませんし、当社の事業である介護事業に近い分野で、継続的に支援できる形を色々と探しました。すると、一人の社員から「ヤングケアラーへの支援はどうかな?」と提案が。調べてみると、高齢者福祉にも関連する社会問題でもあり、まだ支援の手が薄いことを知りました。

なかなか情報がない中、たまたま2021年6月に、神戸市が全国で初めてヤングケアラー相談支援窓口を設置したと新聞で見て、すぐに連絡を取りました。神戸市と連携してヤングケアラー当事者同士の交流の場「ふぅのひろば」を開いている、NPO法人こうべユースネットを紹介してもらい、彼らがホッとした時間を過ごせるような備品があれば、ということで、コーヒーメーカーとコーヒー豆をプレゼント。これが私たちのヤングケアラー支援の第一歩となりました。

NPO法人こうべユースネットへコーヒーメーカーを贈呈

有志での支援活動を進めるなかで、行政やNPO法人だけの支援だけでなく企業が加わることで、新しい一手が打てる可能性があると実感しました。こうして、2022年5月から会社としての支援活動が始まりました。

さまざまな企業が、自社の得意分野や社員の知見、施設や設備などのリソースを活かして、できる範囲で社会に役立つことをすれば、社会課題の解決に大きく貢献できるのではないでしょうか。「本業に近い分野で、無理せず、できる範囲で」というのが、ポイントだと思います。

就労・息抜き・奨学金返済。3つの支援で、神戸市と事業連携協定を締結

神戸市との連携した支援を一歩進めるため、2024年3月に3つの支援を柱としたこども・若者ケアラー支援に関する事業連携協定を締結しました。

①中間的就労「就労訓練」支援

②レスパイト「息抜き」支援

③奨学金支援

一つ目の中間的就労支援は、大阪で当事者会として活動しているNPO法人「ふうせんの会」で当事者から聞いた「こういう支援がほしかった」という声から生まれた支援です。家族のケアに手を取られて、就職することが難しい若者ケアラーに対して、私たちが運営する施設でアルバイトとして働く機会を提供することで、将来の就職へ向けての最初のステップを応援します。この支援を実現するために、雇用に関する法律的な整理を、神戸市にしていただけたのが、とても助かりました。

就労支援の様子

神戸市から紹介された5名の方が、現在アルバイトとして働いています。社員とペアになって、施設で共用部の清掃などの軽作業を担当しています。家庭の事情やご自身の体調に合わせて、自由度の高い勤務シフトとし、1日3時間程度の短時間勤務から受け入れています。自己否定しがちだった子が、働くうちに前向きないい顔を見せるようになるなど、賃金を得るだけでなく、社会経験を積むことで、その子の未来が変わる可能性があるのだと実感しています。

レスパイト支援とは、こども・若者ケアラーが家族と離れて一人になりたいときに、私たちが運営する施設の部屋と食事を無料提供して、息抜きに使っていただいたり、こども・若者ケアラーが修学旅行や受験などで家族の世話ができないときに、ご家族様に一時的にお過ごしいただいたりします。また、奨学金支援は、奨学金の返済があるケアラーの方が当社に就職した場合、その返済を当社が月3万円まで肩代わりするという取り組みです。返済が終われば、自分の本当にやりたいことに向かってもらって構いません。この二つはこれから具体化していきたいと思っています。

不登校支援や障がい者アートにも。広がる、社会貢献の好循環

こどもgaカフェの様子

最初は大阪本社の有志だけで始まった社会貢献活動でしたが、施設の社員を含め、徐々にメンバーが増えて、活動範囲も広がってきました。中でも、スクールソーシャルワーカーの方との共同発案で始まった「こどもgaカフェ」の活動には、大勢の社員が参加しています。学校や家庭に居づらい小中学生が中心となって、調理から接客までこどもたちでできるように私たちがサポートします。こどもたちが活躍できる居場所として2〜3ヶ月に1回、当社が運営するいくつかの施設で実施していて、ご入居者様もこどもたちとの交流を非常に楽しみにされています。

それだけでなく、参加した社員からは「自分が介護の仕事についた頃の初心を思い出した」という声もあり、好影響が生まれています。

もう一つ、神戸市で始まった活動として、障がい者アートの支援があります。神戸市との連携協定に基づいたアートプロジェクトを実施し、前年度までの「こころのアート展」(「しあわせの村」で開催する障がい者アート展)および「HUG+展」(こうべ障がい者芸術フェスタ)出品作品を対象に、審査員が推薦した入選作品を、賞金をもって当社が買い上げました。

作品は、チャームスイート神戸垂水にて常設展示し、表彰式や内覧会にて多くの方に鑑賞していただく機会を設けました。今後は、作品の魅力を外部発信するほか、ワークショップ等の開催も企画しています。実は、この取り組みが生まれたきっかけは、こども・若者ケアラー支援の事業連携協定の締結の際の、当社と神戸市との対話でした。双方の取り組みを知り、理解することで、また新たな事業が生まれた瞬間であったと思います。
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こども・若者ケアラーの持続可能な支援のために

最後に、行政と民間企業の両者の立場から、今後も継続的にこども・若者ケアラーを支援していくために、どのようなことをお考えか伺いました。

神戸市福祉局相談支援課:

こども・若者ケアラーには、切れ目ない、伴走型支援が必要です。社会全体の認知が変わってきたら、もう少し生きやすい社会になっていくので、啓発にも力を入れていきたいです。そして、当事者への支援では、彼らのペースに合わせ、民間の力を借りつつ、「認めてくれる場所がある」と感じてくれるケアラーが一人でも増えるよう、寄り添っていきたいです。

株式会社チャーム・ケア・コーポレーション:

まずは神戸市と当社で、支援の形をつくって、兵庫県、そして全国へと広げていきたいです。実際に、いくつかの自治体とお話をさせていただいています。そして、さまざまな社会課題を解決するためには、多様な企業が、それぞれの得意分野を活かして、関わっていくことが力になるのではと思います。当社も特別なことをやっているわけではありません。「できる範囲で、できることを」を今後も続けていきたいですね。

取材・文/松本有希(株式会社神戸デザインセンター)