近年の危険な暑さは、もはや新たな災害といっても過言ではありません。こうした現状をうけて、令和6年(2024年)4月から熱中症特別警戒アラートの運用が始まりました。 熱中症警戒アラートは、危険な暑さが予想される場合に、暑さへの「気付き」を促し熱中症への警戒を呼びかけるものですが、その一段上に位置づけられ、「人の健康に重大な被害が生じるおそれがある過去に例のない広域的な危険な暑さ」が想定されています。
熱中症とは、温度や湿度の高い場所などで、身体の中の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、体温を調節することができなくなったりしておきる健康被害の総称です。最悪の場合、死に至る可能性があることから、年々全国の自治体でも大きな課題となっています(グラフ参照)。神戸市も例外ではありません。
こちらは神戸市における熱中症による救急搬送者数の推移ですが、ここ数年増加傾向にあることがわかります。
そこで、神戸市と大塚製薬株式会社は、2021年3月に包括連携協定を締結し、健康づくり、食育、人材育成、スポーツ振興、災害対策の5項目を盛り込んだ様々な施策に部局横断で取り組んでまいりました。
大塚製薬は、疾病の診断から治療までを担う医療関連事業と日々の健康維持・増進をサポートするニュートラシューティカルズ関連事業の両輪で事業を展開する中で、いち早く熱中症対策に着目し、ポカリスエット発売以降、長年にわたり熱中症の正しい知識を伝える活動を継続してきました。また、各種スポーツ団体や官公庁、自治体と連携し、多岐にわたる健康施策の支援活動にも注力されています。
その取り組みの一環で、今年度新たな視点で取り組んだ熱中症に関する施策について、このたび大塚製薬株式会社 ニュートラシューティカルズ事業部 関西第一支店 神戸出張所 所長・安村 孝さんにお話をお伺いしました。
熱中症対策セットを、全小中学校・幼稚園へ寄贈
年々厳しい暑さが見込まれる状況下で、以前にも増して子どもたちや保護者のみなさまの熱中症対策の新たな気づきが生まれ、水分補給における意識もますます高まってきています。神戸市における熱中症による救急搬送者数を一人でも減らすことができるよう、長年培ってきた弊社のノウハウを最大限にご支援させていただきたいと思っております。今年はその一環として、市教育委員会と連携し、熱中症弱者といわれる子どもたちへの対策強化をサポートさせていただきました。
熱中症対策セットの寄贈式にて。神戸市教育委員会 福本教育長(左)と、大塚製薬株式会社 ニュートラシューティカルズ事業部 関西第一支店 飯間支店長(右)
2024年6月14日、市内の公立学校園289ヶ所に熱中症対策セットを寄贈しました。これは、熱中症啓発ポスター、啓発用CD、アイススラリー(後述)6個、熱中症対策アンバサダー講座リーフレットをまとめたセットです。この取り組みに関しましては、全国初の試みに、メディアを通じ多くの反響をいただきました。
こちらは健康局と共同制作した啓発ポスターです。熱中症対策における8つのポイントを分かりやすく伝えています。未就学児や低学年でも読めるように、かわいいシロクマのキャラクターを起用し、訴求内容もより端的なセリフにするなど工夫を凝らしました。また、訴求方法の一つとして、小中学生間で活用されているパソコンのロック画面にこのポスター画像が表示されるようにいたしました。
さらに、給食時に流れる校内放送の啓発音源(CD)もご用意しました。ポカリスエットのCMでおなじみの吉田羊さんと鈴木梨央さんが、熱中症に対する注意喚起をしてくれます。これらを活用いただくことで、児童・生徒のみなさまが、熱中症を正しく理解し、その知識をお友達や保護者のみなさまもお伝えできるようになってほしいと願っています。
ここで最近のトピックですが、「ポカリスエット アイススラリー」が新しい暑さ対策で話題です。アイススラリーは、細かい氷の粒子が液体に分散した流動性のある氷で、通常の氷に比べ結晶が小さく冷却効果が高いといわれています。 「ポカリスエット アイススラリー」は活動前に摂取することで、効率よく “身体を芯から冷やす”とともに水分と電解質(イオン)を補給することができる氷状飲料です。教育現場に備えていただきますと、暑熱環境下でのご活動をサポートいたします。
知って広げる、熱中症の啓発授業
大塚製薬では、自治体・学校・企業等の組織・団体のみなさまを対象に、熱中症対策の啓発・普及活動をおこなう際に必要な専門的な知識の学びの場として「熱中症対策アンバサダー講座」を開講しています。 修了された方は「熱中症対策アンバサダー」として認定され、周囲の人々に対する声かけの輪を広げる活動等にお役立ていただいています。今回のセットには、こちらの講座リーフレットも同封し、既に教職員の方々にも受講いただいております。
また、社員による出前授業の活動を通じ、須磨区の太田中学校を訪問させていただきました。体育館に集まった全校生徒のみなさんに熱中症の基礎知識をお伝えし、講義内容をグループ毎にディスカッションをします。最後に、習得した知識をポスターにまとめるというのが一連のセミナーです。1コマの授業で、インプットからアウトプットまで体験できご好評いただいております。
太田中学校は、日頃より社会連携を意識した取り組みに積極的で、従来、地元とのつながりも深い一面があります。熱中症のリスクや対策について、「お世話になっている方々への恩返しの思いを込めて」と、中学生が高齢者にレクチャーする活動なども実施していると伺っています。後日、高齢福祉課のご協力で、グラウンドゴルフやゲートボールをしている活動的な高齢者に集まっていただき、中学生の熱中症対策レクチャーを受講いただき盛況でした。
市内の中学校42校に、自動販売機を設置
今年度、市内の公立中学校全80校中、42校に飲料の自動販売機を設置しました。
熱中症対策には、こまめな水分・塩分補給が大切です。一方、生徒のみなさまが持参する水やお茶でも良いのですが、たくさん汗をかいたときは、塩分が不足する可能性もあります。
発汗によって失われたカラダの水分を回復・維持し、体温上昇を抑えるためには、体液に近いイオン(電解質)バランスのイオン飲料による水分補給がおすすめです。水に比べて体外に排出されにくく、長時間にわたってカラダを潤し続けることができます。その上、ナトリウムやカリウムなどのイオンを適切な濃度で含んでおり、カラダに負担をかけることなく、すばやく水分を吸収することができます。
自動販売機があれば、必要な時にポカリスエットなどの飲料が手軽に入手できます。無償で飲料を提供する、ライフラインベンダーの機能も兼ね備えており、災害時にもお役立ていただけます。
「非常時、日頃飲みなれた飲料が入手しやすい環境は、ほっとする感じがあり心強い」とのお声もいただいています。
トータルヘルスケアカンパニーとして事業を展開している企業として、これからも神戸市の皆さまの健康維持・増進のお役に立ちたいと考えています。今後は、おかげさまでご好評の「災害栄養セミナー」の継続開催や、高齢者のフレイル対策にも積極的に取り組み、神戸市との協議の上、熱中症以外でもお力になれるように努めてまいりたいと思っております。
取材・文/松本有希(株式会社神戸デザインセンター)