中高生の自由な発想で「里山の課題」を解決 地域と関わり自分ごとに/一般社団法人リベルタ学舎

「すべての子どもが未来に希望をもてる社会へ」をコンセプトに、2013年から兵庫県で活動している一般社団法人リベルタ学舎。主に「個人の力」と「協働する力」を高めるための教育プログラムをプロデュースする事業を手がける企業です。対象は中高生から企業・行政の研修まで幅広く、学ぶ人に応じた学びの場を提供しています。

2023年度「CO+CREATION KOBE Project」に採択されたのが、兵庫県の農村地域での体験を通して、10代を中心に、学び・稼ぎ・循環する場をつくる「神戸エコビレッジ(仮)における中高生対象 里山アントレプレナーシップ教育事業」です。

神戸市西区を舞台に、農業や里山の再整備といった自分自身の体験を通して社会課題を見つけ、課題解決となるような企画を立案し、実施するというプロジェクト。学校のなかという「閉じられた学び」ではなく、まちというフィールド全体を使って自由な学びを目指しています。

同社で研修内容や学習プログラムなどの設計を担当している、チーフ・ラーニング・オフィサーの大福聡平さんに、2023年度の取り組みについてインタビューしました。

中高生がSDGsについて考えて実践するプロジェクト、2023年度は里山で活動


ワガママヴィレッジで活動する大福さん(中央)

私たちは、中高生がSDGs(持続可能な開発目標)について考えて実践する「ワガママSDGs」という取り組みを行っています。自分の興味や違和感などを入り口に、自分ごととして発見した社会課題の解決を「ワガママ」として、その実現を協働して試作する(プロトタイピング)というSDGs実証プロジェクトです。

2023年度は「神戸エコビレッジ(仮)における中高生対象 里山アントレプレナーシップ教育事業」として、そのフィールドを耕作放棄地に移して、開墾して竹林を伐採しながら取り組む「ワガママヴィレッジ」をスタートしました。

このプロジェクトには神戸市西区で古くから続く農家「小池農園」さんが協力してくださり、土地の一角をお借りしてフィールドとして活用させていただきました。

プロジェクトには中学生3名、高校生7名の合計10名が参加してくれました。もともと里山に関心があったわけではなく、山ってこんな感じなんだ!という受け止めが多かったです。

活動は9月から開始しました。9~10月は現地でフィールドワークを行い、里山に触れながらアイデアを膨らませる期間として、竹の伐採や稲刈り、竹細工の加工などに取り組みました。11~12月は中高生たちが自らのアイデアを形にする期間として、伐採した竹の活用方法について、オフラインとオンラインで企画会議を2回実施しました。

「竹を活用した調理をしてみたい」という企画から、食をテーマにしたイベントを11月と12月に実施しました。餅米を使ったデザートや竹で炊いた炊き込みご飯、ガス火を使わない調理や、無煙炭化器を使った竹炭づくりを行いました。12月のイベントは、「竹」でできた調理器具・器・お箸を使った調理イベントを中高生主体で実施しました。

活動の集大成として、1月に西神中央駅で行われた「ウェルマルシェ」に出店しました。中高生が主に担当した竹細工ワークショップでは、プロジェクトでつくった竹炭を墨汁にして「書き初め」や、竹箸作り体験などを実施しました。

2月以降も継続して活動しています。高知県から罠猟(わなりょう)免許を持つ方に来ていただいて「ジビエ」について学んだり、竹で炊いた神戸産のお米と海苔、高知産の塩でできた「おむすび」ワークショップを行ったりして、地産地消について考える機会をつくりました。

教科書では学べない実践的な体験、里山の豊富な「資源」を実感

振り返ると、事業の前半は取り組み方について試行錯誤しました。とりあえず現場に出て活動をする形にしたものの、目の前のやるべきことに気を取られて、中高生たちが企画を考えることがなかなか進みませんでした。

私たちは彼らがじっくり考えるための時間が必要だと感じて、当初予定にはありませんでしたがオンライン勉強会や講座を組み入れました。フィールドでの活動も、まずは社会人が実践してみて、試行錯誤する姿を中高生たちに見せることで、課題意識が芽生えるようにしてみました。すると、中高生たちから企画アイデアがどんどん出てくるようになり、後半はスムーズに進めることができましたね。

「竹」を軸にした里山での体験に取り組んでいくなかで、だんだんと竹が「資源」に見えてきて、「竹林を整備するために切る」のではなく「竹を使いたいから伐採する」という考え方に変化していきました。

中高生からは「国をつくりたい」というアイデアも飛び出しました。彼らは普段、学校などが作ったルールのなかで生きていますが、ワガママヴィレッジでは自分たちが作ったルールで自分の国が作れるんじゃないか、という発想で、国にするなら「通貨」が必要だと。そこで竹で作った貨幣を「地域通貨」として、農作業などをした報酬をその通貨で支払い、近隣の村と通貨でやりとりをするなど、実現は難しいものの「国づくり」を軸にアイデアをふくらませていました。

ワガママヴィレッジの活動は中高生だけでなく社会人も一緒に活動し、「里山」をキーワードにいろんな人が関わりました。社会人と接することで中高生たちが、いろんなキャリアの重ね方を学び、ただ竹について考えるだけではなく、色んな視点で里山を眺めて、自分の関心、生き方について考えるきっかけになったと思います。

そして、頭のなかでただ考えるだけではなくて、失敗してもいいからやってみる、やってみて気づいたことを糧に再挑戦する、という学びのサイクルを弊社は重視しています。2023年度のワガママヴィレッジの取り組みは半年という短い期間でしたが、中高生たちはそのサイクルを1回転、2回転して、教科書では学べない体験ができたのではないかと思います。

市に事業が採択され関わる人の輪も拡大。活動を継続して里山の課題解決の一助に

神戸市の「CO+CREATION KOBE Project」に採択されたことで、助成金などを活動に役立てることができました。また行政の支援を受けた事業ということで、大学の先生や協力してくれる企業など、いろんな人に関わってもらいやすくなりました。中高生たちのやりたいことの実現が、より円滑にできたように感じます。


参加した中高生たちが見つけた課題

2023年度の取り組みは9月スタートだったので、作物を育てる時期とはずれてしまいましたが、2024年度は春から活動して、田畑での農業体験などができればと構想しています。中高生目線で見つけた里山エリアの課題は15個。解決には時間がかかる課題ばかりですが、ワガママヴィレッジでの活動を通じて、中高生たちの実践的な学びにつなげ、神戸市における課題解決に貢献できればと思います。

ワガママヴィレッジ
https://wagamamas.jp/

写真/一般社団法人リベルタ学舎 提供

取材・文/森本亜沙美