1948年創業で、神戸市に本社がある六甲バター株式会社。1958年にオーストラリアから輸入したチーズを、QBBブランドで全国発売。日本のプロセスチーズのトップシェアを誇る、チーズメーカーです。
約300種類ある商品の中でも「ベビーチーズ」と呼ばれる、小さなブロック型のプロセスチーズは、年間2億本を超える同社の看板商品です。2020年ごろ、お客様アンケートを分析していたところ、「おいしく健康プラスベビーチーズ チーズDE鉄分(以下、鉄分ベビー)」が、妊婦や子育て中の女性に、特に支持されていることが分かりました。明らかに他の商品とは違う購買行動に、同社は着目。マーケティング部を中心に、深堀りしていくこととなりました。
そこで浮き彫りになったのが、妊婦の抱える課題です。妊娠した喜びの反面、常に体調不良や不安と隣り合わせの状況や、母親世代との常識のギャップ、独身の友人との話題が合わなくなるなどの人間関係の変化にストレスが増大。答えを求めて、ネットやSNSを検索し、情報過多でますます混乱していく…そんな状況も見えてきました。
「健康を支える食品会社として、何かできないか」そんな思いで、妊婦が安心できる場を作る「QBBベビーチーズ for mom」という企画を立て、CO+CREATION KOBE Projectに採択されました。出産後のサポートや集いの場は、公的な支援も含めて多様ですが、妊婦向けの集いの場は多くありません。これを公民連携で充実させることは、神戸市が力を入れる子育てしやすい環境づくりを推し進めることになります。
妊婦向けのノンアルコール限定「ニンプバー」や、コミュニティづくりを支援する「妊婦座談会」など、ユニークな企画の背景や、利用者の反応などを、六甲バター株式会社マーケティング部 ブランドコミュニケーションチーム チームリーダーの森崎友鹿さんに、お話を伺いました。
ホテルのバーという非日常空間で、リフレッシュしてほしい
「ニンプバー」企画のきっかけは、社内の子育て中の社員による座談会で出た「妊婦も飲みたいよね」という声でした。妊婦さんが気兼ねなくリフレッシュできる場として、ノンアルコールドリンク限定のバーというアイデアが生まれました。
2024年2月24日〜3月17日には、神戸ポートピアホテルの協力を得て、館内の「バー レスタカード」で実施。通常はクローズしている14:30〜16:00の時間帯を「ニンプバー」として予約制でオープンしました。ノンアルコールカクテルは「モクテル」と呼ばれます。今回は5種のオリジナルモクテルを、考案していただきました。
実施にあたっては、神戸ポートピアホテルの総支配人室 営業企画 副支配人の川中佑一様を中心に、積極的にご協力いただきました。モクテルを考案したバーテンダーの方は、助産師に話を聞いたり、女性の意見を聞いたりして、体にいい素材や盛付けの華やかさなど、何度も試作を繰り返したそうです。また、妊婦さんのために膝掛けをご用意いただくなど、お客様に寄り添った温かい心遣いは、さすがホテルのホスピタリティだなと感じました。
ニンプバー in 神戸ポートピアホテル
https://www.portopia.co.jp/restaurant/detail/lesta/fair/#!fair-88
ご夫婦で来店された30代の妊婦さんにお話を伺うと、「だんだん遠出をしづらくなる中、夫との素敵な思い出ができました。ここは本格的なバーなのに、喫煙や周りの目も気にならず、とても安心感がありました。元々お酒が大好きだったので、バーテンダーさんとお酒の話も弾み、授乳が終わったらお酒を飲みに来るという楽しみもできました」とおっしゃっていたのが印象的でした。
CO+CREATION KOBE Projectに採択され、神戸市と連携したことで、商品PRのためではなく、課題解決のためのアクションであることをしっかりと伝えることができました。ユニークな取り組みは、メディアにも注目いただき、神戸新聞や食品新聞ほか、Yahoo!ニュースや地元WEBメディアにも多数掲載。神戸ポートピアホテル以外にも、三宮にあるモクテル専門バー「モクテリア」でも2023年10月と12月に実施し、16日間で100名を超えるお客様にご来店いただきました。
本音や悩みを話して発散! 妊婦座談会はSNSとリアルのいいとこどり
今回の提案のもう一つの取り組みとして、妊婦さんが安心して、普段一人で抱えている悩みやストレスを共有できる座談会を開催しました。2023年12月〜2024年1月に、神戸市内で4回の妊婦座談会を実施。どの座談会も初対面の皆さんとは思えないほど、大変盛り上がりました。
妊婦座談会はそれぞれ、少しずつテーマを変えて集まっていただきました。
12月1日「あすパーク(灘区)」では、マタニティエステ協会の谷様からハンドマッサージを習いながら、7名がパパへの本音などを話しました。12月10日は会場となった「PORTO(中央区)」代表の佳山様を交えて、12名の働くママの本音を聞く会。1月22日「コトノハ(須磨区)」では、古民家カフェで体に優しいブランチをいただきながら7名が参加。1月26日は再び「PORTO」で、助産師の南田様と神戸市立看護大学の学生3名を迎えて、マッサージを教えてもらいながら、8名の方が食事や離乳食の話を中心に語りました。
参加者の方からは「一人で考えていると悶々とすることも、話してみると意外にみんな同じことで悩みがあって、ホッとした」「自分とは違う考えに触れて、もっと気楽に考えていいんだと肩の力が抜けた」という声をたくさん聞きました。さらに、みんなで話して笑うという単純なことに、どれほど元気が出るかという、リアルな場のパワーを何度も感じましたね。帰るときの皆さんのスッキリした顔を見て、こちらも嬉しくなりました。
SNSでのつながりは匿名だからこそ本音を言えますが、自己完結になりがちです。一方、ママ友や同僚には、夫への不満や仕事への不安を本音で話しづらい部分もあります。その点、「明日は会わない」という絶妙なその場限りの関係だからこそ、座談会で会った人には、なんでも話せるという状況が生まれるのだと思います。まさに、SNSとリアルのいいとこどりですね。
六甲バターには「お客様の声を聞き、ニーズに応えたい」という思いが、リレーの襷(たすき)のように受け継がれています。今回、鉄分ベビーをきっかけに気づいた、妊婦さんへの支援の必要性。妊婦がバーに行く、妊娠の不満や不安を語り合うなど、世間のイメージから妊婦さんを解放することにも大きな意味があると考えています。もっともっと寄り添って、妊婦のコミュニティづくりを支援していき、神戸の子育てが明るく楽しくなるように、今後もプロジェクトを継続していきたいです。
写真/奥大輔(「ニンプバー」in 神戸ポートピアホテル取材分)、六甲バター株式会社 提供
取材・文/松本有希(株式会社神戸デザインセンター)