地元メディアとして、Z世代の主体的な学びを応援!/株式会社神戸新聞社

いまだかつてない速度で激変する社会。子どもたちが未来を生きる力を育むため、文部科学省は近年「STEAM教育」を推進し、様々な領域を横断した学習をもとに、課題を発見・解決し、新たな価値を創造するような人材の育成を目指しています。まずは高校から、探究学習の授業が展開されていますが、まだ新しい教育のため、手探り状態な現場も中にはあるようです。

そんな中、株式会社神戸新聞社では、かねてより「NIE(Newspaper in Education=新聞を教材として活用する活動)」にも取り組む新聞社として、地域の最新情報と125年の蓄積を活かして、STEAM教育を力強くサポートする事業構想を立ち上げました。

CO+CREATION KOBE Projectでは、神戸で食をテーマにした教育コンテンツ開発を手掛けるスタートアップ企業・株式会社omocni(オモチ)とタッグを組み、中高生を対象にした地域課題解決のワークショップ事業を提案し、採択されました。

講師陣と共に、ゼロからワークショップを練り上げ、2023年12月に「アイデアコンテスト Z世代の提言」を実施した、株式会社神戸新聞社メディアビジネス局営業部の鄭 由理さんにお話を伺いました。

ワークショップ当日の様子。一番右が鄭さん

中高生のユニークなアイデアを、新聞で発信する斬新な企画

創刊125年以上の歴史がある神戸新聞は、朝刊約40万部を発行するほか、年間2億PVの「神戸新聞NEXT」をWEBで展開するなど、兵庫県最大規模を誇るメディアです。人口減少や若い世代の新聞離れなどで、新聞販売以外の柱を模索する中で、新聞社が持つ信頼性と、情報発信&集積力を活かし、教育事業にもチャレンジしています。

2022年度に、神戸市経済観光局が主催する「Flag」という、市内企業が地域活性化のために連携する事業で、株式会社omochiの代表・土井仁吾さんと知り合い、今回のCO+COREATION KOBE Projectの提案にも、ご協力いただきました。地元の大手食品メーカーであるエム・シーシー食品株式会社にもご協力いただき、中高生に「アイデアを出すって楽しい」という実感や、アイデアを発信・検証するプロセスを通して、新しい自分を発見できる学びを届けたいという思いで、企画を作っていきました。

このワークショップは、アイデアをまとめて発表して終わりではなく、リアルな新聞に自分のアイデアが掲載されるのが、最大の特色です。新聞社の情報発信力を使って、親や先生ではない、一般の大人からフィードバックが得られる機会は、今の時代の子どもたちにとって、新鮮な体験だったと思います。大人が求める答えではなく、「自分がちゃんと面白いと思える企画書の作成」を軸にしたことで、中高生も本気を出して真剣に取り組んでくれて、想像をはるかに超える面白いアイデアが生まれましたね。

今回、CO+CREATION KOBE Projectに採択されて一番大きかったのは、教育分野での信頼性が格段に上がったことです。実績のない新規事業なので、学校へ参加を呼びかけても、民間企業だと少し警戒されるんです。それが、行政がバックアップしていることで、安心して話を聞いていただけました。

多様な性質・学力のZ世代が集まり、アイデアの真剣勝負!

「神戸の100年を振り返り次の100年を創造するアイディアコンテスト Z世代の提言」は、2023年12月10日にデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で、続いて12月17日にURBAN PICNIC(アーバンピクニック/東遊園地)で、合計2回開催しました。

午前中は、「神戸の歴史・人に伝わる発信方法」と題して、三好正文(株式会社神戸新聞社)によるレクチャーを実施。ランチには、エム・シーシー食品株式会社 常務取締役・水垣佳彦さんから、「思い」を大切にした商品開発についてのお話を聞きながら、ご提供いただいた「100時間かけたカレー」と「牛すじぼっかけ」をみんなで味わいました。

午後からは、土井仁吾さん(株式会社omochi 代表取締役)からアイデアづくりのフレームワークを伝授してもらって、参加者が考えたアイデアを言語化・視覚化し、ブラッシュアップ。全員の発表を選考した結果、各日3名の方が受賞されました。

omochiさんのワークシートは、大人も本気になるような手応えのあるもので、子ども向けでないのが、逆によかったと感じています。まずは、1日の生活のサイクルを思い浮かべて、テンションの上がり下がりを書き、気持ちが動くところの共通点を探っていきます。そこを軸に、誰に向けて、何を提案するのか、事業企画を立てるのです。上手に議論をサポートする、各テーブルのファシリテーターの存在もキーポイントでした。

県外からも含めて24人が参加。性格も学力もバラバラで、学校に行きづらい子もいれば、ビジネスコンテストが好きな子もいて、進路に悩んでいる子、他校の子と交流してみたい子、やりたいことが分からない子・・・など、本当に多様! でも、みんなが前向きにワークショップに取り組んでくれたのが、印象的でした。

最後の発表を聞いていて、『性格・学力に関係なく「これがしたい」という秘めたるものが、一人一人あるんだな』と感じました。中学生・高校生は本来しっかりした意見をもっているので、のびのびと出せる環境や場づくりが、大人の役割なのかもしれませんね。

若者の柔らかな発想に、期待を寄せる声が続々と

2024年1月21日(日)神戸新聞の朝刊6面に、「Z世代からの提言」が全面新聞広告として掲載されました。22名の参加者氏名と共に、12月10日・17日それぞれで受賞した6名の参加者の事業アイデアと、審査員からの講評がずらり。さらに、5名の講師・メンターからのコメントも並びます。

会場の熱気がそのまま伝わってくるような、若者のエネルギーが詰まった紙面に、読者の反応も概ね好評をいただきました。掲載後に実施しました、167名の読者アンケートから、一部を抜粋してご紹介します。

40歳代・女性「このようなワークショップを行っていることを知り、素晴らしいなと思いました。身近な事や自分の周りの環境を良くするアイデアを考えることが、結局は世界全体の平和や生活水準の向上に繋がるのだと改めて思いました。若い世代も沢山考え行動していることが希望だと思いました」

50歳代・男性「Z世代の考え方や発想が記事からわかったような気がしました。世代ごとに考え方は異なる、それを理解して互いが交流する、その大切さを再認識しました。言えることはZ世代は日本の将来を担える”人財”であること」

60歳代・男性「自分自身の立ち位置、取り巻く環境を充分に把握及び理解したうえでの発想、提案は学者や有識者が出すものとは角度と視点が違い斬新かつ身近に感じました。今後の社会貢献に役立つと思います」

70歳以上・男性「Z世代はデジタル世代だけあって情報の質量ともに豊富で多種多様で的確な提言がなされているようです。このような意見は大切にしたいものです」

いただいた貴重な読者アンケートは、参加者はもちろん、講師陣および協賛企業にフィードバックし、今後の活動の充実につなげていきたいと考えています。

神戸の企業の次世代教育への機運を高めたい

ワークショップには、NHK神戸放送局や株式会社有馬芳香堂、株式会社泉平、株式会社ルリコプランニングなどが見学にいらっしゃったほか、現役の教員の方にもお越しいただきました。こういった探究学習の教育コンテンツの提供は、投資したものがいつ返ってくるか一見分かりづらいので、民間企業だけでなく、自治体や教育機関と連携することが必要です。

また、教育現場では教職員の負荷が大きいこともあり、地元の企業がリソースを提供していきながら、次世代の教育に関わっていくようなスキームを描いています。一つずつ実績を重ねながら、これからも地元企業による次世代教育の機運を高めたいですね。

写真/株式会社神戸新聞社 提供

取材・文/松本有希(株式会社神戸デザインセンター)