衣類を「捨てずに循環」の新習慣を、ファッション都市・神戸から/JGC Digital株式会社

日揮ホールディングスが目指す、資源循環社会

エンジニアリング会社の日本最大手・日揮ホールディングス株式会社。世界中で、石油精製プラントや天然ガスプラントといった製造設備を、設計・建設しています。設立以来、化石燃料にまつわる事業をしてきましたが、今後の世界情勢を見据え、近年では、培った技術力・調達力を、環境分野で貢献する事業に力を入れています。

中でも、CO2マネジメント、バイオ、資源循環の3つのサスティナビリティに資する領域について、新規事業開発を推進。新規事業にはIT技術が必須となるため、IT技術を担う会社として、2022年に株式会社神戸デジタル・ラボとの合弁会社として設立されたのが、JGC Digital株式会社です。

資源循環といっても、様々な素材がありますが、日揮グループでは特に廃プラスチック、廃油、ポリエステルに着目。今回、CO+CREATION KOBE Projectに採択されたのは、ポリエステルのケミカルリサイクルに関連する「衣類回収資源化事業」です。

衣類を回収して資源化するスキームや、プロジェクトにかける思いについて、本プロジェクトのリーダーを務める、JGC Digital株式会社 代表取締役社長CEO 長谷川順一さんにお話をお伺いしました。

衣類回収の行動変容を促せるか?実証実験でトライ

私たちが目指す、ポリエステル循環型社会というのは、不要になった衣類をもう一度、繊維に戻して、新たな衣類を製造する仕組みです。こういった技術は既に国内で開発されていますが、資源化するプラント建設には巨額の資金が必要な巨大プロジェクトになるので、まずは国内できちんと衣類が集まるのかを検証することが第一歩だと考え、本プロジェクトを立ち上げました。

国内で廃棄されている衣類は、年間51.2万トンと言われています。そのうちのいくらかでも資源として循環できれば、環境負荷軽減に貢献できると考えています。

出所:環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務-「ファッションと環境」調査結果-(https://www.env.go.jp/policy/pdf/st_fashion_and_environment_r2gaiyo.pdf)

衣類のリサイクルといえば、「リユース」が思い浮かびますよね。もちろんそれも大切な取り組みですが、やはり最終的には消耗して着られなくなり、廃棄することになります。私たちは、その最終的な「廃棄」の部分を、なんとか資源化できないかと考えています。

また、衣類を手放す、捨てる時って「まだ着られるのにな」と少し罪悪感を感じてしまいますよね。その抵抗や罪悪感を軽くできるような仕組みの構築を目指しています。

やはり多くの人に衣類回収に協力いただくには、善意に頼るだけではなく、何かモチベーションになるインセンティブを用意して、「お得だから回収に持っていこう」と思ってもらう必要があります。

そこで私たちは、回収ボックスに投入した衣類の重さに応じて、ポイントがもらえるアプリを開発することとしました。ポイントの使い道としては、寄付や商業施設でのクーポンを選べます。「衣類回収に持っていくと、ちょっといいことがある」そんなことを感じていただけるようなスキームを目指して、回収ボックスとアプリの開発を進めています。皆さんに親しんでいただけるよう、“ちょっといいことを習慣にする”+“資源がループする”という意味を込めて「するーぷ」と名付けました。

全国初・神戸で衣類回収資源化事業「するーぷ」が始まる

この衣類回収のチャレンジを、どこで実施しようか考えていたときに、私たちのパートナーである株式会社神戸デジタル・ラボ代表取締役(当時、現・取締役会長)の永吉さんから、CO+CREATION KOBE Projectを紹介されました。神戸市が公民連携に積極的で、民間から事業募集をしていると知り応募し、採択していただきました。

神戸市企画調整局の方々には、主に回収ボックスの設置にご協力いただける場所を色々とご紹介いただきました。やはり私たちは地元との接点が薄く、そういった面をサポートいただけたのは非常にありがたかったです。

回収ボックスは三宮中心部に合計4ヶ所設置します。中でも、最も人通りの多い場所である、センタープラザへの設置が決まった背景には、三宮センター街1丁目商店街振興組合の副理事長・植村一仁さんとお話しさせていただいて、「非常に意義ある取り組みですね」と共感いただいたことがあります。さらに、するーぷのポイントを、三宮プラザ名店会加盟店で使える500円のお買い物券に交換可能としていただけて、私たちとしては回収に協力いただく市民の皆さんへ、魅力的なメリットが提供できることになり、とても感謝しています。

「ファッション都市・神戸」といわれるまちなので、回収ボックスのデザインにもこだわりました。ゴミ箱と間違われたり、タバコを入れられたりすると困るので、回収ボックスは、アプリからスマートロックで解錠する仕組みとなっています。アプリにユーザー登録していただくことで、投入した人の属性をデータとして集めることができます。将来的には、回収した量でランキングをするなど、楽しめる要素も追加していきたいですね。

するーぷの画面イメージ

回収ボックスは、2023年1月15日〜3月31日まで、下記4ヶ所に設置予定です。

・デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)

・神戸市営地下鉄海岸線 三宮・花時計前駅

・センタープラザ

・三宮オーパ

ポイントの使いみちは、三宮プラザ名店会加盟店で使えるお買い物券のほか、「BE KOBEミライPROJECT」「認定NPO法人国境なき子どもたち(KnK)」の活動に寄付することも可能です。

回収ボックスは、容量をセンサーで検知して、回収ボックスからの収集を促す仕組みです。今回は「どれぐらいの人が衣類回収に協力してくれるか」を知るための実証実験ということで、衣類の素材は問わず、綿でもウールでも化学繊維でもOK。靴やベルトは不可です。

するーぷ公式サイト
https://sales.suloop.biz/

するーぷアプリ ダウンロード(サービス開始は2024年1月15日予定)
Apple:https://apps.apple.com/jp/app/%E3%81%99%E3%82%8B%E3%83%BC%E3%81%B7/id6474016414

Google:
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.jgcdigital.suloop

神戸市プレスリリース
https://www.city.kobe.lg.jp/a05822/586333815669.html

日揮ホールディングス株式会社 プレスリリース
https://www.jgc.com/jp/news/2024/20240111.html

「するーぷ」が描く、服を捨てない未来

資源化事業全般に言えることですが、回収事業は集めたものが価値を生まないことが多く、そこにコストを払おうという企業はなかなかいません。資源化事業を循環させ、持続可能な社会を実現するには、回収することに対して、企業がお金を払ってもらえるような仕組みが不可欠です。そこに私たちは、アイデアとIT技術を駆使して挑戦したいと考えており、たとえば、ユーザーにクーポンを発行することで、消費につなげ、マーケティングの一環として見てもらうことや、衣類回収事業の環境価値を計算し、その環境価値を販売することを構想しています。

1月から始まる神戸での実証実験で、どれぐらい衣類が集まるのかを見て、他の地域でも事業を展開していきたいです。そして私たちの会社だけでなく、複数の事業者が協業することにより、社会の仕組みとして「服は着なくなったら回収に出す」という行動変容を起こしたいです。ペットボトルも法律ができてしばらくたってから、一般の人の意識が変わりました。衣類についてもそういう意識になって、「自分の駅に回収ボックスがあるから、持っていこう」というのが、普通になるといいですね。

写真/JGC Digital株式会社 提供
取材・文/松本有希(株式会社神戸デザインセンター)