14の挑戦が光る、CO+CREATION KOBE Project最終報告会レポート

神戸市独自の公民連携の制度「CO+CREATION KOBE Project」。神戸市が抱える社会課題の解決につながる事業を、民間事業者から提案する仕組みです。採択された事業者は、民間ならではのアイデアや技術、ノウハウ等を活用した事業を実施し、神戸市が費用の一部を支援します。2023年度は、53件の応募があり、14件が採択されました。

14の企業・団体が集まり、その成果を発表する「CO+CREATION KOBE Project 最終報告会」の様子をお届けします。

神戸市の次世代を豊かに育むために

2024年3月6日、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で行われた最終報告会には、一般公募した約70人の観客の前で、3つのグループに分けて発表がありました。各企業・団体の成果報告の後、グループごとに「神戸市公民連携」をテーマに、クロストーク。株式会社神戸デザインセンターの舟橋健雄さんの問いかけと、登壇者のリアルなやり取りが繰り広げられました。

神戸市も推進するSDGsの開発目標から「教育」「福祉」「まちづくり」を選び、そのテーマに合致した事業を3つのグループに分けてスタート。最初のグループは、「質の高い教育をみんなに」をテーマに、5人が登壇しました。

CO+CREATION KOBE Project採択事業名登壇者
神戸エコビレッジ(仮)における中高生対象里山アントレプレナーシップ教育一般社団法人リベルタ学舎
湯川 カナ
地元地域の歴史を踏まえた探究授業で神戸の未来を担う中高生を地域全体で育てる株式会社神戸新聞社田中 信幸
こども向けプログラミング教室による多世代交流と地域コミュニティ活性化事業株式会社Axros
川上 聰
神戸市内の大学における外国人留学生獲得支援事業一般社団法人神戸東洋医療学院神戸東洋日本語学院
藤本 達也
「保育フェス2023」NPO法人Homika舟橋 常雄

一般社団法人リベルタ学舎 湯川カナさん

「ワガママSDGs」という、中高生の自由な発想で持続可能な社会をつくるための課題解決に取り組んでいます。CO+CREATION KOBE Projectでは、神戸市西区を舞台に、里山・竹林整備の体験を通して、中高生と社会人が企画を協働して試作するというプロジェクトを実施しました。中高生のアイデアによるいくつかのチャレンジは、今でも継続して実施しています。1回きりのイベントではなく、継続が大事なので、参加してくれた中高生が卒業する、10年後までは続けていきたいです。

株式会社神戸新聞社 田中信幸さん

中高生を対象に「Z世代の提言」というワークショップを実施しました。自らの興味関心を出発点に、講師の話や新聞記事を手がかりにして、神戸の歴史や産業を踏まえつつ、解決したい課題を設定。その課題をどうやって解決したいかをまとめ、プレゼンしました。発表内容を神戸新聞紙面にも掲載し、読者からも多くの反響をいただきました。Z世代の視点での課題解決は、普段あまり報道されない課題へアプローチすることができました。2025年に神戸で開かれる「NIE(教育に新聞を)」の全国大会にも、この事業をつなげていきたいです。

株式会社Axros 川上聰さん

「地域福祉センター」は、神戸市内に194ヶ所ある地域活動拠点ですが、高齢者の利用が多いという課題を抱えています。世代間交流を促進するため、本事業では、小学生を対象にしたロボットプログラミング教室を、地域福祉センター約20ヶ所で実施しました。参加者からは高評価を得ましたし、地域福祉センターの利用者は楽しそうな子どもたちの姿に会話に花が咲くなど、コミュニケーションを創出できました。次年度以降も、開催拠点を拡大し、地域活性化に貢献していきたいです。

神戸東洋日本語学院 藤本達也さん

大学都市神戸と言われるほど、多くの大学がある神戸市ですが、少子化の影響を考え、学生獲得の活路を留学生に見出す大学も増えてきました。私たちの学校は、中国の学生に日本語を教える日本語学校ですが、中国の学生を直接、神戸の大学に留学できるようにサポートする事業を提案しました。留学体験ツアーで大学を訪れてもらうことで、留学したいという興味関心を持ってもらえました。連携する大学を増やし、もっと神戸の魅力を伝え、留学生を増やしたいと思います。また、地域と留学生との交流を増やし、文化交流・人材交流も促進していきたいです。

NPO法人Homika 舟橋常雄さん

乳幼児期の子どもを健やかに育てる、保育士の仕事はとても重要なものです。私たちは、保育士が前向きに楽しく働くことが、神戸市の子育て環境をより良くするために必要だと考えています。まずは、保育士研修を変えたいと、音楽フェスのように、自発的に会場を選び、保育士自身が企画する「保育フェス」を企画、実施してきました。コロナ明け初開催となった「保育フェス2023」では、普段接することのない企業の方や、他園の保育士と交流できて楽しいと好評でした。今後は保育士が集って交流できるような場づくりにも挑戦してみたいです。

第1部 クロストーク

「CO+CREATION KOBE Projectに提案した理由」は?

登壇者からは「社会変化を起こしたいので、自分たちだけではなく、自治体と一緒にやることに意味があった」「大学に協力を得るために、神戸市に間に入ってもらった」「保育士をめぐる課題を、神戸市に共感してもらいたかった」「神戸市が後援に入ることで、保護者や学校に対して信頼感が出せた」など、それぞれの立場で感じた公民連携のメリットが語られました。

「共創したい事業者」はいますか?

保育フェスの舟橋さんから「ITをもっと入れていきたい」と意見が出たり、Axrosの川上様さんは「プログラミングの講師を神戸の学生にやってもらいたいので、大学と協力していきたい」と話し、リベルタ学舎の湯川さんからは「耕作放棄地をお持ちの方と繋がったことで、中高生にリアルな体験が提供できた」と意見が出ました。

「これからやってみたいこと」を教えてください。

神戸東洋日本語学院の藤本さんは「留学体験ツアーを拡充するほか、職業希望者に向けた職業体験もやってみたい」と話し、Homikaの舟橋さんから「継続支援のための場がほしい。日本にないので作ります!」という意見も飛び出しました。

どんな人でも、イキイキと輝く社会へ

続いて第2部では、SDGsの「すべての人へ健康と福祉を」に関連する、5つの事業の成果報告が発表されました。その対象は、妊婦、親子、若者、障がい者、シニアと実に様々。ユニークなアイデアで、それぞれの課題解決にチャレンジしました。

CO+CREATION KOBE Project採択事業名登壇者
“宿泊型・家族留学”で未来の子育てを考えるNPO法人manma
越智 未空(動画での発表)
大学を舞台とした夢食堂の実施株式会社ORIENTAL FOODS
株式会社北善塔
協力大学 神戸国際大学米田 勝栄
OUTDOOR LAB株式会社Happy吉川 史浩
サンテレビジョン×神戸大学 ウェルビーイング推進プロジェクト株式会社サンテレビジョン大寺 秀甫
QBBベビーチーズ for mom六甲バター株式会社森崎 友鹿

NPO法人manma 越智未空さん

当日は東京にいらっしゃるということで、事前収録の動画にて発表がありました。子育て家庭に1日留学体験を行う「家族留学」を発展させ、「宿泊型家族留学」を初開催しました。この事業は、1泊2日を子育て家庭で過ごすことで、応募した若者やカップルが、将来の家族像を想像しやすくする試みです。振り返り会では、子育てのリアルを経験することで、働き方を考えたり、家族をもつ不安を和らげたりできたという声が多く聞かれました。家族や結婚、子育てといった人生のリアルを知る機会を、これからも若者に提供していきます。
※収録動画にて登壇のため、動画はありません

株式会社ORIENTAL FOODS 米田勝栄さん

大学生が学べて、子どもが地域とつながれる「夢食堂」を、六甲アイランドにある神戸国際大学・学生食堂の夏季休暇を利用して、学生と一緒になって展開しました。同時開催した「夢縁日」も、親子連れを中心に地域の方が1日100人以上来場され、好評をいただきました。秋以降も株式会社北善塔さんのご協力を得て、食堂2階でトマトを栽培し、子どもたちが収穫体験をするなど、地域に開かれた学食になりつつあります。これからも、「学食」のポテンシャルを発揮し、地域活性化に貢献していきたいです。

株式会社Happy 吉川史浩さん

車いすごと木の上に引き上げられている写真が投影されると、会場にどよめきが起こりました。これは、OUTDOOR LABが実施した「ユニバーサルキャンプ」の1場面です。私たちは、「アウトドアをあきらめない」というのを理念としています。障がいを持つ方やシニアの方も、自然が好きな方はいらっしゃいます。でも、「無理だろう」とあきらめてしまっている。そんな現状を変えたいと、アウトドアの安全確保の技術をもった私たちが、サポートすることで実現する事業です。魅力あふれる北区の里山を活かしたアクティビティの開発を、これからも続け、指導者の育成も目指したいです。

株式会社サンテレビジョン 大寺秀甫さん

持続可能な社会に欠かせない価値観である「ウェルビーイング」。神戸大学は「ウェルビーイング先端研究センター」を立ち上げるなど、先進的な取り組みが注目されています。私たちは地元メディアとして、神戸大学と連携し、この研究の認知拡大に寄与したいと、本事業を提案しました。『NEWS×情報 キャッチ+(プラス)』という情報番組で、11月6日〜10日の5日間、毎日15分ほどの特集コーナーを組み、ウェルビーイングについてお伝えする中で、アカデミックな話題を、いかに視聴者に分かりやすく届けるかという伝える力を再認識しました。引き続き、大学との連携を深め、産官学連携の可能性を探っていきます。

六甲バター株式会社 森崎友鹿さん

社員の座談会から始まった「QBBベビーチーズ for mom」のプロジェクト。妊婦の声に寄り添い、応援する企画を数々実施しています。今回の提案では、「ニンプバー」というノンアルコールカクテル限定の妊婦さんが気兼ねなく楽しめるバーの展開と、妊婦さんならではの悩みやあるあるを共有する「座談会」を実施しました。ニンプバーでは、「モクテリア」と「神戸ポートピアホテル」にご協力をいただき、メディアからも注目いただきました。妊婦さんの集いの場は比較的少ないので、これからも寄り添い続けていきたいです。

第2部 クロストーク

チャレンジした社会課題を教えてください。

ORIENTAL FOODSの米田さんは「六甲アイランドには、食事の場所が少ない、図書館がないという課題を聞いていました。学食から変えていきたいです」と話し、サンテレビジョンの大寺さんは「生まれ育った神戸の人口減少に、何か貢献できないかと考えた」と話しました。

CO+CREATION KOBE Projectでは、どんなメリットがありましたか?

登壇者の皆さんが「事業の信頼度が上がった」と答えました。認知拡大に役立った、社会的意義があるとお墨付きをもらえた、という声もありました。Happyの吉川さんは「ユニバーサルキャンプを実施する公園からも、市がバックアップしていることで安心して利用OKをいただけた」と話がありました。

今後、どんな取り組みを展開されますか?

Happyの吉川さんは引き続き「神戸には、世界に誇れる自然体験ができるまちになるポテンシャルがあるので、誰もが山に行きたいなと思ったら、行けるような環境をつくっていきたい」と意気込みを語りました。サンテレビジョンの大寺さんは「大学都市神戸にて、研究成果を届ける際の敷居の高さを、テレビ局として広く、分かりやすく伝えていく重要性を痛感しました」と話します。ORIENTAL FOODSの米田さんは「神戸市での取り組みを横展開して、全国の学食が当たり前のように地域に開かれる未来を目指しています」と力強く話しました。

活気あるまちを、ずっとこれからも

最後となる第4部では、「住み続けられるまちづくりを」と題して、まちに関わる事業を提案した4名が成果を発表しました。

CO+CREATION KOBE Project採択事業名登壇者
淡河バンブープロジェクト淡河町地域振興推進協議会
武野 辰雄
衣服回収資源化事業(仮)JGC Digital株式会社長谷川 順一
路上ライブの開催情報を共有するSNS「Street」 ~路上ライブは見つける時代から探す時代へ~Street (神戸電子専門学校 学生チーム)長澤 伸一郎
神戸三宮“ミチニワ“エリアの地域活性化デジタル事業川崎重工業株式会社永原 斉

淡河町地域振興推進協議会 武野辰雄さん

北区を活動の拠点にして、放置竹林の利活用に取り組んでいます。竹はとても成長が早く、タケノコを1日取り損ねるだけで、商品価値がなくなるんです。その幼竹を活用してのメンマづくりをしています。プロジェクトメンバーは「美味しく、楽しく」を合言葉に活動していて、行政・地域・民間企業が一体となった、サステナブルな取り組みを提案しました。特にメンマを使ったレトルトカレーが販売できたことが、今年の成果です。どんどん輪を広げていきたいです。

JGC Digital株式会社 長谷川順一さん

衣類回収サービス「するーぷ」を立ち上げ、不要になった衣類を捨てるのではなく、再資源化する循環型社会を目指した事業を提案しました。三宮の4ヶ所に設置された回収ボックスに衣類を投入すると、アプリでポイントがたまる仕組みで、ポイントは商店街のお買い物券や寄附として活用できます。予想以上に参加してくださり、平日でも1日平均90kg近くが回収できました。私たちの目標は「衣類は捨てずに循環」という、行動変容を起こしていくことです。今後は、事業継続のために、環境価値をきちんと算定し、企業の参入を促す仕組みづくりに取り組んでいきます。

Street (神戸電子専門学校 学生チーム) 長澤伸一郎さん

今回唯一の学生チームです。私自身が、ストリートミュージシャンを検索できる仕組みがあればいいのに、という発想から開発したアプリを、得意分野をもったメンバーを集めて、事業として立ち上げました。企業が参入しにくいニッチなジャンルだからこそ、全国展開を視野に入れて開発しています。神戸市文化交流課と連携し、実証実験を経て、まちなかパフォーマンスに採用されました。2024年4月から本格始動する予定です。神戸市での実績を積んで、音楽でまちづくりをしている他の自治体に展開して行きたいです。

川崎重工業株式会社 永原斉さん

神戸の商店街は「まちが衰退している」という危機感を感じています。どうしても品揃えや価格では、amazonには勝てません。そこで、何をリアルの価値にするのか?を考え、知識のある店員、個性的な店舗を買いまわる楽しさ、まちのファンになることだと気づきました。弊社の持つデジタル位置情報サービス「リアデュー」を使って、コミュニケーションが取れる、歩く距離でマイルが貯まるなどの機能を実装しました。三宮本通商店街・センターサウス通りとコラボし、イベントも実施。実際にまちを訪れる人が増えるなど、効果も見えてきました。今後は貯めた「まちマイレージ」を震災復興支援、緑の森づくり支援に役立てていけたらと思っています。

14事業の発表がすべて終了しました。それぞれ持ち時間をめいっぱい使っての発表で、お互いの事業についても興味深く聞いていました。

第3部 クロストーク

自分たちのリソースを使って、まちを良くしようという観点を持った理由を教えてください。

淡河町地域振興推進協議会の武野さんは「生まれ育った地域の風景を、次世代につなげていきたい」という気持ちが原動力だと語りました。JGC Digitalの長谷川さんは「大学時代を過ごした神戸は、ファッション都市ですし、衣類回収で環境に貢献したい」と話しました。川崎重工業の永原さんは「リアデューに面白がってくれる商店街を神戸市に紹介いただいた」と、それぞれの理由を語りました。

ITをどうやって活用したのか、その辺りをお聞かせください。

Streetの長澤さんは「専門学校1年の頃から構想していて、2年になって規模を拡大するため、得意分野のあるメンバーが集まって開発しました」と答えました。川崎重工業の永原さんは「アプリはきっかけでしかなく、結局は商店街自体に魅力がないと意味がない。単発イベントでもいいのでどんどんやって、リアルな場の魅力を高めていくのが大切」だと話しました。

今後の抱負をどうぞ。

JGC Digitalの長谷川さんは「服の回収自体はコストでしかないので、そこをどうマーケティングにつなげるかが最終的な目標。横浜でもチャレンジが始まります」と次の展開をお持ちでした。同じく4月から本格始動するStreetの長澤さんは「まちなかパフォーマンスは、神戸の観光にも寄与できる。観光客など市外の方にもアプリを通して楽しんでもらえたら」と抱負を話しました。淡河町の武野さんは「幼竹の安定的な確保が一番難しい。今年は新たな活動拠点を持つ予定で、より良い活動を広げていきたい」と語りました。

一つ一つのチャレンジが、神戸の財産になっていく

最後に、神戸市企画調整局・藤岡部長から、総括のコメントがありました。

今日発表いただいた14プロジェクトは、約50組の応募から厳選されたプロジェクトです。担い手は、NPO、大手企業、市内企業、学生と実に様々。こういった活動が、神戸を活性化するのは間違いない。地域課題解決は行政だけの仕事ではありません。

神戸も今後、少子高齢化・人口減少が加速していきます。行政だけ、単体だけで挑むのではなく、チームになって解決していくことが必要です。ぜひとも、今回提案いただいたプロジェクトは継続していただきたいです。今後もサポートしていくので一緒にやっていきましょう。

取材・文/松本有希(株式会社神戸デザインセンター)
写真/山下和希(株式会社神戸デザインセンター)